ヘッドホン難聴も増えている
近年、注目されているのは、携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンなどで音楽を大音量で聞く人がなりがちな「ヘッドホン難聴」です。
人が出せる、一番大きな声が80?くらいといわれています。
普通は、それ以上の大きな音が「騒音」になります。
ところが多くの人は、ヘッドホンで音楽を聴くとき、「大きな声で呼びかけられないと聞こえない」程度に音量を上げています。
このときの音量は、平均して80?になりますから、日常的にヘッドホンで音楽を聴いている人は、騒音を毎日、耳にしているのと、同じことになるのです。
大きな音を聞いていても、人間の聴力は16時間ほど休ませると、たいていの場合は回復するといわれています。
ところが、ヒマさえあればヘッドホンを耳にしていると、疲れが癒される時間がありません。
筋トレだって、同じ筋肉を使うのは、1日おきがベストといわれています。
疲れたまま、無理にトレーニングしても、故障の原因になるだけだからです。
耳の細胞も同じです。
毎日、一方的に大きな音を聞かされ続けると、疲れ果てた有毛細胞が、損傷してしまいます。
そして、少しずつ、難聴が進行してしまうのです。
「若いころは音楽をよく聞いたけど、最近は聞くことがなくなった」という人も、決して油断はできません。
初めて携帯型音楽プレーヤーの「ウォークマン」が発売されたのは1979年です。
当時、夢中になって音楽を聴いていた世代は、今や40代、50代です。
騒音性難聴は、見た目ではわかりませんし、気づかないうちに進行していることが多いもの。
聴力が落ちている自覚がないまま、ほかの難聴の原因が重なると、あっという間に悪化してしまうことも考えられるのです。
耳をよくするには腸をよくしろ
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誰も知らない「難聴の三大原因」とは?
伝音性難聴はともかく、感音性難聴の多くは、一般的に原因不明といわれています。
難聴は、ほんとうに、どうしてなるのかわからず、治療法も確立されていない、難しい病気なのでしょうか?
私が治療のベースにしている中医学では、体に何らかの症状がでるときは、必ず原因があると考えます。
では、いったい中医学では、難聴はどこに原因があると考えるのでしょう。
難聴の原因の前に知っていただきたいのが、中医学では、人間の体は、パーツの寄せ集めで成り立っているのではなく、全身がつながっているとされているということです。
ですから、耳の働きが衰えている理由は、耳だけでなく体のほかの部分にもあると考えます。
そして、脈や体の動かし方、内臓の調子まで診て、体全身から症状の原因を見極めようとするのです。
体の状態は一人ひとり違いますから、たとえ、「聞こえづらい」という、同じ症状がある人でも、少しずつ理由は異なります。
ただ、耳にトラブルがある人たちには、必ず、ある共通の体の不調が存在します。
それがどんな状態なのか、代表的な3つを、ここでご紹介しましょう。
@血流の悪化
耳が悪くなる、最大の原因は、血流の悪化です。
最新の研究では、私たちの体は、約37兆個の細胞からなるといわれています。
人間は、骨の細胞が活動しているから、体を支えることができ、筋細胞がせっせと働いているから、体を動かすことができます。
そして、目の細胞や耳の細胞が、イキイキと活躍するからこそ、ものを見たり、音を聞いたりできるのです。
細胞は、栄養素を酸素で燃やしてエネルギーを生み出しています。
そして、すべての細胞が必要とする栄養と酸素は、血液によって運ばれているのです。
ですから、何らかの理由で血流が衰えると、細胞はたちまち栄養不足に陥ります。
血流が不足したとき、ダメージを受けやすいのは、細かな働きをするためにたくさんの栄養を必要とする器官です。
そのひとつが、耳なのです。
A内臓疾患
中医学では、生命エネルギーである「気・血・水」の巡りをよくすることが、健康になるための基本であるとされています。
簡単に説明すると、
「気」とは、体を動かす、基本的なエネルギーであり、生命活動を維持します。
「血」とは、血液のことで、臓器や組織に栄養を与えます。
「水」とは、汗やリンパ液などの体液全般を指し、体全体を潤します。
この、「気・血」が巡るルートで、内臓や表皮などの全身を結ぶ流れを「経絡」と呼びます。
代表的な「経絡」は、12本あるとされていますが、一つひとつの流れが独立しているのではなく、お互いに影響しあって、総合的に身体機能を動かしています。
ですから、中医学では、耳は腎臓の経絡上にあり、深いかかわりがあるとされていますが、腎臓だけでなく、ほかの内臓の働きが悪くなることでも、耳に影響を与えているといえるのです。
西洋医学の見地からも、内臓に疾患がある人は難聴になりやすいと考えられています。
糖尿病の人はそうでない人に比べて、難聴のリスクが3・7倍、腎臓病では5・9倍になると報告されているのです。
B自律神経の乱れ
自律神経とは、心臓の動きや食べ物の消化、そして体温の調節など、自分の意思とは関係なく、生命を維持するために、24時間休みなく働き、大切な体の機能をコントロールする神経です。
自律神経には、交感神経と副交感神経があり、対照的な機能を担っています。
人間の体のほとんどの器官は、この2つの神経がバランスよく働くことで維持されています。
自律神経が弱ったり衰えたりすれば、当然、音を聞こうとする、耳の働きにも影響を及ぼします。
また実は、自律神経の乱れと、前述した、@血流の悪化、そして、A内臓疾患は密接に結びついています。
どういうことかご説明しましょう。
交感神経は、主に昼間、心身を活動的に導く神経で、副交感神経は夜を中心に、休息を促すリラックスの神経です。
現代人のほとんどは、緊張やストレスなどで、あるべき状態よりも交感神経ばかりが強くなる傾向にあります。
交感神経が優位になると、血管が収縮し血圧が上昇します。
そして、血流が悪化するのです。
また、自律神経は内臓の働きをコントロールしています。
それは逆にいえば、内臓の働きが衰えてしまうと、自律神経も弱ったり乱れたりしてしまうということです。
とくに、内臓の中で最大の面積を占める腸、そして胃の働きが鈍ると、自律神経に大きな影響を与えます
こうして、血流の悪化、内臓疾患、自律神経の乱れは、お互いに深くかかわりながら、耳の健康状態を左右しているのです。